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東京地方裁判所 昭和44年(行ク)75号 決定

申請人

「ベトナム反戦と反安保のための六月行動委員会」

右代表者

もののべながおきこと物部長興

代理人

後藤孝典

岡邦俊

被申請人

東京都公安委員会

右代表者

阿部賢一

指定代理人

佐々淳行

外五名

代理人

沢田竹治郎

外五名

申請人の執行停止申請事件(本案当庁昭和四四年(行ウ)第二三八号行政処分取消請求事件)について、当裁判所は、被申請人の意見をきいたうえ、次のとおり決定する。

主文

被申請人が申請人の昭和四四年一一月一三日付集会集団示威運動許可申請について、昭和四四年一一月一四日付でなした、同月一六日実施の日比谷野外大音楽堂――日比谷公園西幸門(左)――内幸町――ホテル日航前(左)――数寄屋橋――鍛治橋――東京駅八重州口国労会館前に至る集団示威運動は許可しない旨の処分の効力を停止する。申請費用は被申請人の負担とする。

理由

一申請人の本件申請の趣旨は主文と同旨であり、その理由は、別紙(一)のとおりであり、被申請人の意見は別紙(二)のとおりである。

二疎明によれば、申請人は、全米反戦デー連帯佐藤首相訪米反対のため、集団示威行進を行うべく、昭和四四年一一月一三日昭和二五年東京都条例第四四号「集会、集団行進および集団示威運動に関する条例」一条に基づき、被申請人に対し、主文第一項掲記の集団示威運動の許可を申請したところ、被申請人が、同月一四日付をもつて右申請を許可しない旨の処分をしたことが認められ、右事実関係からすると、集団示威運動の本質に鑑み、申請人は、特段の事情がない限り、本件処分により生じる回復困難な損害を避けるため、右処分の効力を停止する緊急の必要があると認めるのが相当である。

三被申請人は、本件集団示威運動の主催団体たる申請人が、反代々木系極左暴力学生および反戦青年委員会等の過激な集団と共同行動をとつた前歴があるとして、過激な性格を帯有するものであると主張し、なるほど、疎明によれば、申請人が主催した大衆活動に反代々木系学生集団が参加して共同行動をとつたことを認めることができるが、いずれの場合にも、右活動が安寧秩序を乱すような事態に至つたことを認めるに足りる疎明はない。

また、被申請人は、申請人の組織母体である、いわゆるべ平連が、過激行動をすることを本質とするアナーキストや反代々木系学生集団によつて主導権をにぎられ、次第に過激な集団に変質しつつあるように主張し、疎明によれば、べ平連が、申請人主催の大衆行動に参加する諸団体のうち有力な地位を占めていることを認めることができるが、べ平連が、過激な学生集団と共同戦線を指向し、暴力的傾向を帯有する集団に変質しつつあることを認めるに足る疎明はない。更に、被申請人は、いわゆる大学べ平連が、屡々違法行為に出ているとして、大衆行動にその参加を認める申請人も暴力的傾向をもつ団体であると主張するが、疎明によれば大学べ平連は、それ自体、団体として存在するものではなく、大学を単位として結成されたべ平連を便宜総称するにすぎないことが認められるとともに、大学べ平連が、すべて暴力的傾向を有するものと認めるに足る疎明はない。もつとも、疎明によれば、慶応大学べ平連が、都市人民戦争をすることを行動方針とするように窺われる趣旨のことをその機関誌に発表したことを認めることができるけれども、右事実だけで、直ちに申請人の主催する集団行動がすべて、暴力的性格を帯有するものと認めることは早計である。

そのほか、被申請人は、本件集団示威運動によつて安寧秩序が害される危険発生の蓋然性がある旨主張するが、本件全疎明資料を比較検討しても、被申請人の右主張はとうてい認めることができず、かえつて、申請人は本件集団示威行進の実施については、老若男女を問わず、広く一般大衆が参加することを期待し、示威行進に伴う雰囲気を極力やわらげるように努力していることが認められさえするのである。これを要するに、本件処分の効力を停止することにより公共の福祉に重大な影響が生じる事情があることを認めるに足る疎明はないというほかはない。

四よつて、申請人の本件申請を正当として認容すべく、申請費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。(駒田駿太郎 小木曾競 山下薫)

決定

申請人 「ベトナム反戦と反安保のための六月行動委員会」

被申請人 東京都公安委員会

右当事者間の昭和四四年(行ク)第七五号行政処分執行停止決定申請事件について、当裁判所は、昭和四四年一一月一六日付で処分の効力を停止する決定をしたところ内閣総理大臣佐藤栄作より当裁判所に対し、行政事件訴訟法第二七条に基づき、異議が述べられたので、当裁判所は、つぎのとおり決定する。

主文

本件につき、当裁判所が昭消和四四年一一月一六日付でなした決定は、これを取り消す。

昭和四四年一一月一六日

東京地方裁判所民事第三部(駒田駿太郎 小木曾競 山下薫)

異議陳述書

申立人 ベトナム反戦と反安保のための六月行動委員会

代表 物部長興

被申立人 東京都公安委員会

右当事者間の御庁昭和四四年(行ク)第七五号行政処分執行停止決定申立事件について、内閣総理大臣は行政処分執行停止に関し左の理由により異議を述べる。

異議の理由

一、本件集団示威運動は、昭和四十四年十一月十六日ベトナム反戦と反安保のための六月行動委員会の主催により、全米反戦行動デー連帯・佐藤首相訪米反対を目的として、参加人員約六千名、宣伝カー五台をもつて、日比谷野外音楽堂を出発し、日比谷公園西幸門―内幸町―日航ホテル前左―数寄屋橋―鍛治橋―国労会館前を進路として行なおうとするものである。

二、ところで、本件主催団体はその構成団体に集団的暴力行為をする危険性の極めて高い各大学べ平連を含むのみならず、同様の危険性が極めて高い反戦青年委員会、反代々木系学生諸派等の過激団体とかねてから共同行動をとつてきたものである。しかして同日は、これら反戦青年委員会、反代々木系学生諸派等の過激団体が総理訪米阻止の目的等達成のため、羽田現地武装実力斗争の一環として、国会、総理官邸等の占拠を含む多数箇所叛乱・政府中枢制圧・首都制圧を呼号し、都心、繁華街において過激な行動をとることを企図している。

三、しかるところ、本件集団示威運動の進路は、都内においても自動車ならびに歩行者の交通量の極めて多い繁華街であり、かつ、その出発地点附近は、右過激団体の集団行動予定地城と競合あるいは近接しているため、本件申請について東京都公安委員会が「集会・集団行進及び集団示威運動に関する条例(昭和二五年東京都条例四号)」に基づいて行なつた本件集団示威運動不許可処分の効力が停止され、申請どおり集団示威運動が行なわれるときは、これら過激団体が本件集団示威行動に参加し、これに同調する右主催団体の一部過激分子と相呼応して本件集団行動予定地域附近において、集団的暴力行為によつて極度の混乱状態を惹起せしめ、六千名におよぶ本件集団示威運動参加者はもとより、一般市民も右の混乱状態に巻きこまれ、その結果、これらの者の生命・身体・財産に重大な損害が加えられ、平穏な秩序の維持が著しく阻害されるおそれが大である。

さらには、これらの混乱の機に乗じて出発地点に近接する中央諸官庁への乱入、占拠、破壊等がなされ、国政の遂行に重大な支障を与えるに至るが如き事態が発生するおそれもある。

以上の事態は、公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがあるものといわざるを得ない。

昭和四十四年十一月十六日

内閣総理大臣 佐藤栄作

東京地方裁判所民事第三部 御中

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